シンジが術を教わり始めてから半年の月日が経っていた。
以前より落ち着き、その黒い澄んだ瞳には強い意志が現れていて、顕著で細身の体から細いながらも筋肉がしっかりとしている。
もし、昔のシンジを知っている連中が見れば別人と間違えるかもしれない。
勿論容姿が変わった訳ではなく、雰囲気があまりにも違うから否定する、という感じだが。

服とご飯に関しても心配は無かった。
デパートなどから拝借してしまえば何の問題も無い。
ただ、シンジは良心からか抵抗が多少あったが、誰もいないので咎める人もいない、とキョウは一刀両断して物を盗っていった。
ゴメンナサイ、と心の中で呟きながらシンジも盗っていき、最近では罪悪感さえなくなってきた自分が怖いらしい。

そして、最も重要な術士の力を修得するための修行はシンジにとって、まさに地獄の日々であった。

「まず始めに基礎体力作りからだ。じゃあ手始めに100キロ走って」

「ひゃ、100キロ!? そんなの無「逝け」……はい」

基礎体力作りから始まり、実戦的な格闘術の鍛錬。
術を繰り出す概念の勉強。
術を昇華させていく修行を行っていった。


修行以外にも大変な事は沢山あった。
キョウに女顔と言ったら酷く落込み、それを慰めるのに苦労したり、
シンジが手料理を振舞うと、涙をこぼしながら食べるキョウがいたり、
辛くも楽しい日々が続いていく。





そして、この世界との決別の時が来た。






「準備は出来てるか?」

「うん、準備OKだよ」

シンジの手元にあるのは一振りの刀。
術の増幅機能を果たす紋様が刻み込まれている日本刀を腰に携帯している。
一方、キョウは杖を手に持っているだけ。
装飾が施されている杖は、一見高価そうに見えるのだがよく見てみるとあちこちに傷がついているのが判る。
キョウの身長よりもある大きな杖を振りかざす様は、まさに魔法使いという雰囲気が醸し出されている。服装は相変わらずの黒服なので、余計にそんな感じがする。

「じゃあ、始めるぞ」

杖を上空に向け、詠唱を始める。
それと共に、まるで共鳴するかのように震える大地。
キョウを中心に吹き荒れる暴風が辺りを破壊していく。
杖から一筋の光が空に上り、立体型魔方陣が浮かび始める。

「(さよなら、絶対に助けるから)」

シンジのわだかまりはまだ残っていた。
これから助けに行くのは自分の事を知らない人達。
自分の知っている人達を助ける事が出来るだろうか?
前回の自分では助ける事も出来ず、ただ流されるままに生きてきたから。
今回もそうなるのではないのか?
そんな不安がシンジの心の奥で蠢いていた。
複雑な表情をしながら赤い海を見る。

「あ、綾波」

赤い海の上にはいる筈もない人物が佇んでいた。
いつも着ていた制服姿。
人より白い綺麗な肌。
彼女だからこそ似合う蒼銀の髪の毛。
そして、全てを見透かすような深紅の瞳。

「(いってらっしゃい)」

ファーストチルドレン、綾波レイが微笑みながらこちらを向いている。
寂しそうな顔をしながら、でもそれを悟られないように、自分の出来る精一杯の笑顔でシンジを見送っていた。
自分の頬に流れている涙さえも気づかずに。
シンジもそんなレイの姿を見て、涙を零した。

「行ってきます」

大切な人達を助けるという決意。
力をつけた自分にも出来るかどうかはわからない。
でも、レイの笑顔を見て決心がついた。

【時空転移】

赤い海、この世界から最後の生物が消えていった。













新世紀エヴァンゲリオン〜術士の力〜

第一話「使徒と少女の邂逅」













ボクは親に捨てられた。
勿論、その辺の知らない道に置いていかれるという様な言葉通りではない。
施設の前に置いていかれたわけでもない。
親戚の家に預けられた、というのが表向きの理由らしい。
らしい、というのは自分に明確な記憶が無いからだ。
ボクの記憶は4歳の時からスタートしている。
そう、捨てられたショックで記憶喪失になってしまったらしいのだ。
元々記憶なんてものは、皆3歳ぐらいの時から段々と明確化していくものだから、生活に支障など出るはずもない。
だからボクもそんなに悲観的には感じていない、と思う。
何しろ親の顔など数度しか見ていないのだから、悲観する暇さえないのかもしれない。
ボクの親とも呼べる人は一人。
四年前、月の光も無い新月の夜に出会った、自称『世界一の術士』を名乗る少年。
容姿とは裏腹の性格。ボクを見る時の母性をも感じる優しい瞳が、ボクの心を包み込んだ。













―西暦2015年―



2001年に新型N2爆雷によるテロ事件により、壊滅的な打撃を受けた東京都。
急遽、長野に暫定的な都市が建設される事が決定した。
工事からわずか4年という異例の速さで、新東京は首都としての役割を果たす所まで急成長する事になる。
それが第二新東京市。
だが、あまりにも急務とはいえ作った首都は高層ビルと田んぼが近くにあるという、何とも奇妙な風景が出来上がった。
政府の上層部は一から作り直すという意味合いも込めて、第二新東京に続く次の都市の建設に着手した。
建設場所は神奈川県箱根町。三番目に作られし東京。
使徒迎撃要塞都市という裏の顔を持つ都市。
つまり、それが第三新東京市である。













―緊急警報、緊急警報をお知らせします―


―本日12時30分東海地方を中心とした関東地方全域に特別非常事態宣言が発令されました―


―住民の方は速やかに指定のシェルターへ避難して下さい―


―繰り返しお伝えします、住民の方は速やかに指定のシェルターへ避難して下さい―


耳朶を打つセミの声。
電柱の上に付けられたスピーカーから流れる避難勧告が辺りにこだましていた。
ジリジリと肌を焼く、セカンド・インパクトによって当たり前になった真夏の暑さ。
夏の風が、少女の髪を撫でた。

「電話もだめか。どうしよう」

ボクはポケットに手をやり、中から一枚の写真を取り出す。

写っているのは三十代手前にも関わらず、黄色のタンクトップにデニムのホットパンツを穿いて、中学生には刺激的なポーズをとった長い黒髪の女性――葛城ミサトだった。
寄せられた胸のあたりにマークを付け、『ここに注目!』などと書かれている。

「ヘンな人……」

セカンドインパクトの衝撃で常夏に変化した日本では、こんな写真など珍しくもない。
だが、わざわざこんなポーズで、しかも親から送ってきた手紙の中に入れるだろうか。
未だ見ぬ常識はずれな行動をする人物に呆れながら、少女は腰を下ろす。

そこから見えるのは無人の都市。
いつもは騒音でかき消される小鳥達の鳴き声も、今ははっきりと聞こえてくる。
だが、それは夜明けの静けさとはまったく違う。嵐の前の静けさ。
小鳥達が飛ぶ。

「え?」

次の瞬間、爆発音と衝撃波が辺りを揺るがした。

空を見るとそこには、上空を戦闘機が2機、高速で飛行している。
ビル群の間からから見えるそこには、飛行機雲が鮮やかな軌跡を残しながら。
そのビルの間を縫うようにして、巡航ミサイルが飛んでいく。
ミサイルのたてる轟音と衝撃に顔をしかめた少女は、一瞬惚けたような表情をした後に叫んだ。

「ミサイル!?」

一瞬遅れて、空気の振動を肌で感じられるほどの爆音が鼓膜を強打する。
少女は反射的に耳を押さえ、身を屈める。

「……なに、まった……」

ぼやくような言葉が途中で切れた。

「……何、あれ?……」

道路の真ん中で、茫然と立ち尽くしている少女。
その視線の先では、異様な光景が繰り広げられていた。
国連軍の戦闘機に囲まれ、集中砲火を受ける使徒。
激しい砲火を意に介した様子も無く歩みを進め、時折掌から打ち出す光の槍のようなもので戦闘機を打ち落とす。
着地の衝撃により、戦闘機の破壊された機体の破片が少女へ向けて飛び散る。
避け切れないと判断した少女は思わず身を屈める。
少女に破片が当たろうかと思われた瞬間、青いアルビーヌ・ルノーがブレーキ音を響かせながら、残骸からかばう様に停止した。


「ごめーん、お待たせ♪」


目の前には黒い服装に黒いサングラスかけた写真の女性、葛城ミサトが立っていた。













第三新東京市の地下では戦略自衛隊の上官達がモニターを睨みつけながら指示を出していた。

「目標は依然健在。現在も第三新東京市に向かい、進行中」

「総力戦だ。厚木と入間も全部挙げろ!!」

「出し惜しみはなしだ!! なんとしても目標をつぶせ!!」

国連の三人の軍首脳の声が響き渡る。
ディプスレイには、使徒『サキエル』の姿が映し出されている。
サキエルに対し、大型のミサイルが打ち放た。
しかし、ディプスレイの中のサキエルはそれを容易く片手受け止め、バラバラに破壊してしまう。
ミサイルの爆発による効果は、明らかに皆無というのが素人目にも分かる。
ビルを一瞬にして破壊してしまう程の爆炎を物ともしないサキエルに驚愕の声が漏れる。

「何故だ!? 直撃のはずだ!!」

「やはりATフィールドか?」

「ああ、使徒に対し通常兵器では役に立たんよ」

軍首脳の後ろに陣取っている、二人の男―――碇ゲンドウと冬月コウゾウの会話が皮肉げに交わされた。
軍は基本的に国民を守るためであり、敵を殲滅するためでは無い。
上層部の連中はその事を忘れているのか、怒りに我を忘れていた。

「……はっ! 了解しました! 予定通り発動いたします」

電話を取った軍人はそう答えて電話を切ると、忌々しげに告げた。
軍人のプライドを優先させた選択を軍人司令部は下したのだ。


「諸君、アレを発動するらしい」


N2地雷、核を除いて一番の破壊力を持つと言われている悪魔の爆弾。
シェルターにいる民間人をも犠牲にして作戦を決行。
これが軍司令部が下した決断である。













所変わって疾走中の車中。
少女を乗せた車、アルピーノ・ルノーは使徒の様子を見るために停止していた。

「ダァ〜何なのよ!! ……待ち合わせの時間にチョッと遅れたくらいで、いなくなるなんて!!
 そりゃぁ〜昨日飲みすぎた所為で、寝坊したり、地図を忘れて、道に迷って、2時間遅れたのは、悪かったけど!!
 ちょっち遅れた位で、行き成り待ち合わせの場所から居なくなるなんて、酷いじゃない!!」

「居なくなったと言われても、電車も止まってたしどうしようかと悩んでいたんですよ」

だからボクは悪くない、と胸を張る少女にミサトも根性論を出す。

「そんなの気合いで何とかしなさいよ、気合い!!」

「まあまあ、何とかこうして会えたんだし、結果オーライって事で良いじゃないですか」

「それは、そうだけど……」

自分にも非があるだけに何も言い返せないミサトは怒りを静める。
少女はそんなミサトの姿を見てうんうんと頷いている。
因みに少女は遅刻してはいなかったが、道草をとっていたせいで電車が動かなくなってしまい、移動が出来なくなったに過ぎない。

「それにしても化け物をウオッチングなんて、凄い趣味ですね」

「趣味じゃないわよ!」

少女にツッコミを入れつつ、相変わらず使徒の動きを観察し続けているミサト。
少女も同じくミサトが見ている方向を見てみるが、のどかな田んぼの風景しか映らない。
数分、そんな状態が続くと、ミサトが急に情けない声で叫び始めた。


「ちょっとN2地雷を使うわけ!?」


おそらくこれから来るであろう爆風という名の衝撃に、ミサトは考えるだけで背中に冷汗が流れるのを感じた。
とっさに少女を庇いながら伏せるミサト。
数瞬後、辺りに衝撃波が走り抜けた。













「やった!!」

「残念ながら君たちの出番はなかったようだな」

軍人達は喜びを隠そうともせずに高々と笑った。

『衝撃波来ます』

センサーと主モニターの映像が消え、代わりにサンドストームが映る。

『その後の目標は?』

『電波障害のため、確認できません』

「あの爆発だ。ケリはついている」

自信満々に言い放つ軍人の一人。 一体何を根拠にした発言なのかは分からないが、迷いが見られない。

『センサー回復します』

『爆心地に、エネルギー反応!!』

「なんだとぉ〜っ!!!」

自信満々だった軍人の一人がその報告に愕然し、叫ぶ。

『映像回復します』

モニターにはほとんど無傷まま残っている使徒。
立ち上がって驚愕する軍人たち。

「わ、我々の切り札が・・・」

「なんてことだ・・」

「化け物め!!」

一人が悔しげに机を叩き、軍人たちは力無く座り込んだ。
モニターに映る爆心地に佇む使徒。
さしもの使徒もあの爆撃に少しは傷ついた様である。
顔の様な物の下から新たな顔がもう一つ増えている。

「予想通り自己修復中か」

初老の男がモニターを見て言う。

「そうでなければ単独兵器として役に立たんよ」

サングラスの男が答える。
その時、使徒を映像を送っていたヘリが使徒の放った光線で破壊され再び映像が途切れる。
どよめきがあがる。

「ほう。たいしたものだ。機能増幅まで可能なのか」

「おまけに知恵も付いたようだ」

「この分では再度侵攻は時間の問題だな」

そう言う初老の男とサングラスの男だが、まるで驚いた風でもなく動じてもいない。
相変わらず冷静を保ち、それがまるで分かっていたかのような口ぶりの会話がなされていた。
モニターに先程とは違う角度で、再び使徒が映る。

「また予言が当たったな」

冬月は使徒の姿を見て、複雑な表情で独り言を吐いた。













「よいしょ! っと。ふぅ、何とかなったわね」

急にボクを押し倒してきたと思ったら、車が横に回転しながら吹き飛ばされた。
常夏の日本に慣れているボクでも暑いと思う熱風が、大きな爆発音から数分経った今でも、肌で感じとれる。

「そうですね」

未だに状況を把握できないボクは、言われるがままに車を起こすのを手伝う羽目になった。
服には汚れが付いてしまったので早く洗濯したい。

「あんた、あんな目に遭ったのに落ち着いているのね」

「そうでもないですよ?」

そして、今ボクの目の前には眉間に皺を寄せて不審がっている写真の女性がいる。
あちこち砂ぼこりが付いているのを気にしながら。

失礼な。これでも心臓はバクバクいっているというのに。
確かにボクは感情が表に出ない方だけど、あんな大爆発怖いに決まってるじゃないか。
そんなことを考えていると手を差し伸べてきた。


――――何?


「私の名前は葛城ミサト。ミサトって呼んでね、碇ユイナちゃん」


あまりに唐突過ぎて分からなかったけど、これは握手というものだろうか。
友達や知人さえいないボクにとって、握手をした事など全く無い。
握手できるのは嬉しいのだが―――

「ナツメです」

「え? あ、貴女ユイナちゃんじゃないの!?」

如何せん、名前が違う。
初対面なのに名前を間違えるなんて失礼な人だ。
ミサトさんは頭を抱えながら、間違えただのなんだのと呟いている。

―――ん? そういえば、何で初対面なのに名前を知っているんだ?

……まあ良いや、別に。

「それは十年前の名前に過ぎません。ボクの名前はナツメ。
ボクの存在を定義する名は『ナツメ』以外にありません」

「そ、そう。じゃあナツメちゃん。これからよろしくね」

「何がヨロシクなのか良くわかりませんが、こちらこそヨロシク」

ボクはミサトさんの手を握って握手をする。
自分でも不器用だと思う握手の仕方。他人同士がしていたのを思い出しながらする、そんな感じの不器用さ。
ミサトさんの手を握り、何回か上下に振ってみる。
多分これでOKだとは思うのだが、ミサトさんの複雑そうな顔からは大丈夫だったのかは、はっきり言って分からない。

「ナツメちゃん。手、逆よ?」

逆?
相手が右手を出している時、左手で手の甲を持ってするんじゃなかったのか?
う〜ん、コミュニケーションってのは難しい。

「それにしてもナツメちゃん。乙女として、その格好で歩くのは如何なものかと思うわよ」

「そんなに変ですか? 結構気に入っているんですが」

ボクの服はごく普通のファッションだと自負しているのだが、やっぱり変なのだろうか。
黒をベースにしたスカートとブラウス。
通常のスカートよりもふっくらとした余裕を持たせてあり、赤のリボンをアクセントにしてある。
世間の間ではゴスロリという言葉で表現させている服らしい。
ボクにはこれが一番良いと思うのだが、周りの反応は良くない。

「この常夏の日本にそんな格好している人なんていないわよ」

「世間には疎いんで良く分からないんですけど、通販の雑誌でこれが人気って書いてあったもんで。
 半信半疑で注文してみたら、これまた意外に良かったんですよ。
 それ以来、こういう系のファッションを着てるんです」

「胸を張って言う事じゃないわよ、ナツメちゃん」

むぅ、ミサトさんも呆れた視線を向けてくるとは。
このリボンのアクセントの良さが分からないとは、全くもって可哀相だ。
後でジックリこの良さを教えてあげないと。

「急がないといけないから乗って」

ミサトさんは典型的な日本人だな。
もっと心に余裕を持たないと早死にしちゃうよ?

「大きなお世話よ」

口に出てたのか、この癖も直さないとな。
こめかみをピクピクさせているミサトさんを尻目に、助手席に座る。
ふと視線を爆発のあった方向を見ると、そこには未だに赤みががった空が見えた。













サングラスの男と初老の男が軍人たちと向き合っている。

「今からこれより本作戦の指揮権は君に移った。お手並みを見せてもらおう」

電話を置くと軍人の一人が苦々しく皮肉を吐く。
はその受け答えに皮肉混じりの質問を返す。

「了解です」

「碇君。我々の所有兵器では、目標に対し有効な手段が無いことを認めよう」

「だが、君なら勝てるのかね?」

碇と呼ばれたサングラスの男。
碇ゲンドウはサングラスを押し上げもって返す。

「そのためのNERVです」

「・・・期待しているよ」

捨てゼリフを残とテーブルが沈み本部から退場していく軍人達。

『目標は今だ変化なし』

『現在迎撃システム稼働率7.5%』

「国連軍もお手上げか。どうするつもりだ?」

初老の男、冬月コウゾウがゲンドウに訪ねる。
ゲンドウはしばし顔を伏せた後、再び顔を上げ高々を指令を出した。

「総員第一種戦闘配備!」

「総員第一種戦闘配備!!」

「地対地戦用意!!」

発令所が慌しく動き出す。
そんな発令所とゲンドウを見ながら冬月は一度ため息を吐いた。

「レイは戦闘には耐えられん。
 ましてやあの子を信頼しているわけでもあるまい。つまり、パイロットがいないぞ?」

手元に写っているモニターには、レイが待機している映像が映し出されている。
そのすぐ傍には、冬月が『あの子』と言っている人物もいた。
楽しげに会話しているようには見えないが、唇が動いている事から何か話してはいるのだろう。

「ふっ、問題ない。すぐに予備が届く」

一年前に現れた『あの子』
アメリカ第二支部から派遣されたサードチルドレンを初号機に乗せるわけにはいかなかった。
初号機はネルフにとって切り札でもあり、それも最強のカードといっても過言ではない。
信用はしているが、信頼はしていない以上それも出来ない。
ゲンドウはネルフの司令として、自分の娘を乗せる以外に方法は無かった。
それが親として正しいかどうかは別として―――

「自分の娘を予備扱いとは、ユイ君が悲しむぞ?」

父親としてならその判断は正しいのかもしれないが、今はネルフの司令の立場を優先しなくてはならない。
ゲンドウは親心の心情を押し殺し、非情な選択をあえてとる。
冬月の言葉には答えず、ゲンドウは黙ってサングラスを上げた。













「じゃあこれ」

「何ですか? これ」

「国連直属の特務機関ネルフ。これから行く場所だから一応読んでおいてね♪」

「はい」

ボクは今、カートレインなるものに乗っている。
車が横に移動しているような妙な感覚に気分が悪くなりながらも、ボクはパンフレットを捲る。
ペラペラ捲っていくと、そこには非公式とは思えないほど丁寧に作られている組織の構造が書いてあった。
ボクの視線の先にはミサトさんから渡されたパンフレットの写真。
人造人間エヴァンゲリオン『初号機』と写真の下に補足が書かれた。
更に隣にある文字を流し読みしていく。

……………全然解らない

専門用語が多すぎて、ボクには到底理解が出来ない。
元々勉強は嫌いの部類に入るし、英語は苦手だ。
そんなボクにLCLという訳の分からない液体の名前を出されても困る。
読むのに飽きたボクは、パンフレットを読んでいるフリをしながら、ミサトさんをチラ見する。

「何、ナツメちゃん?」

ばれたか、意外に勘が鋭いのかも。

「そういえば、ボクの親は何をしている人なんですか?」

「ナツメちゃんの? ネルフの司令をしているわ。
簡単に言うと、ここの組織では一番偉い人なのは確かよ」

「はあ、偉い人ですか。
何度か会った事はあります。けど、到底上に立つ人間には見えなかったです」

「それについては返答しかねるわ」

元がアレだ。悪の親玉と表現した方がよっぽど似合う。
明らかに黒幕で、自分の兵隊を駒扱いしていそうだ。
拙い事が起きても「問題ない」の一言で、繭一つ動かさずに部下を切り捨てるに違いない。
最後に会った時も殆ど喋る事は無かったし、手袋をしている時点で明らかにおかしい。

「アレは悪の親玉に違いない」

「んなわけないでしょ!!」

ミサトさんはもう少しおしとやかにした方がいい。
それじゃあ男にはモテないはず。

「大きなお世話よ!!」

「心の中を読まないでください。これじゃあプライバシーの侵害です」

頬を膨らませて怒ったフリをしてみる。

「はぁ、なんかもうドッと疲れちゃった」

呆れられた。

「何か、最初っから淡白な反応しかしないわね」

それは顔の表情があまり変わらないせいだ。
心の中じゃ喜怒哀楽は激しいぐらい……だと思う。
これでもボク自身、気をつけてはいる。
頬を膨らませてみたり、ジッと相手の目を睨んだり、身振り手振りでジェスチャーっぽい事もしているのだ。

そんな事を考えていると、ミサトさんはボクの顔をマジマジと見て、何かを疑ってる顔に豹変する。

「――――ねぇ、一つ大切な質問していい?」

艶やかな唇から繰り出された言葉は真剣そのもの。
獲物を虎視眈々と狙う鷹のような眼力がボクに注がれる。
その瞳を見ると背筋がブルッとくるぐらいだ。

「どうぞ」

ボクは勇気を振り絞って返答する。
ミサトさんの視線を外さず、真っ直ぐ見返す。
するとミサトさんは更に真剣な表情になり、ボクの両肩を掴む。


「――――あなた、男? 女?」


「……………」


ミサトさんは今までボクを男だとでも思ったのだろうか。
さっきのボクの服云々より、こっちの方が非常識なんじゃないのか?
確かに一人称で『ボク』とは言ってるし、自分で言うのもなんだが中性的な顔をしている。
だけど、髪の毛は腰まであるし、服は誰でも分かるほどの女物の服。


これはもう怒るというより―――


「何よ、その目は」


哀れで可哀相という感情しか浮かんでこないのは仕方ない事だ。
ミサトさんの脳はもうボロボロに違いないだろう。
うん、そうに違いない。

「ナツメちゃん?」

ボクはミサトさんの肩に手を置き、深呼吸してから宣告する。

「ミサトさん。
 腕のいい病院なら残り少ない余生も楽しめるはずです」

「何の話よ!?」

話がかみ合わない中、何とか必死に説得を試みようとした時に、カートレインはトンネルを抜けた。













―後書き―


改訂版第1話。何とか完成するも、早くも路線がずれてきました(汗)
改訂前と比べると、だいぶ違う事がわかります。
しかも、シンジ君。TS化しちゃってるし………。
因みに言わなくても分かるとは思いますが、ナツメはこの世界でのシンジ君の役目を果たしています。
でも、性格は全く違いますけど(笑)
ナツメもオリキャラといえばオリキャラの分類に入るんで、もう既にエヴァの原型留めてませんね(汗) 独自路線爆走中です。
こんな駄文に付き合ってくれた読者の皆さん、ありがとうございました。

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